誰かがキスをしているな、と思ったら、キミとあの人でした。

 背を向けたキミはあの人に夢中。

 あの人はうっとりと薄目をあけて、そして、目が離せなくなっていたわたしに気付きました。

 一瞬、目が合って、あの人は微笑。

 それは、綺麗で、官能的な。


 そのときわたし、気付いてしまったのです。

 わたしもキミに抱きしめてほしい。

 あんなふうに、舌を絡ませて、あんなふうに、愛されたい。

 気付きたくなかった。

 できれば気付きたくなかったそれは、恋というより情欲でした。

 わたしにはこんなに汚い部分がある。

 無邪気に愛を確かめ合う恋人達を前に、わたし、おんなの情念を知ってしまった。

 どろり、と、これまでのわたしが溶けてゆきました。