名前の無い物語


「…人間?」予想外の言葉に海は声が詰まった

当時、能力者はまだ生まれていない
なのに…魔法を使う天使相手に勝った人間がいる?


しかも、王なら相当の腕の者の筈
そんな奴を、どうやって…


「詳しい事は分かりません。ですが、その少年は…普通は持たないある『力』を持っていたようで…。」

「力…。」

もし

もし、何かの変異でこの時代にも能力を持つ人間がいたとして
天使と戦えるレベルなら…辻褄が合うのか?


「箙さんは、その人に会った事が?」

「…いえ。娘の友達でして…よく話を聞いていただけです。」

「娘?」空は首を傾げた
話を聞きながら部屋中を見渡したけど、この家に自分達以外の人物がいる気配は無い

どこかに出掛けているのかも知れないけど…


「娘とその少年は、とても仲が良かったみたいで…。自慢するように、帰ってきてはいつも彼等の話をしていました。」


…箙さんの娘さんと、世界を救った少年か友達?
けど、海の話ではそんなのずっと昔の筈…

『時間の流れがずれてる』

柚歌は慎重に箙を見据えた


「その娘さんは、今どこに?」

「…あの時、計画を止めると言って出ていったっきり、帰ってはきませんでした。」