名前の無い物語











「離せ、離せよ伊織っ!」

修練場から出て、目の前の広場に繋がる階段を駆け降りながら
吉野はようやく伊織の手を振り払った


乱れる息を整える事も忘れて
吉野は背を向ける伊織を睨み付ける


「何で陽斗を置き去りにしたんだよ!博士が一体、何をしたって…。」

最後の方は
声が小さくなっていた

吉野には全く分からなかった
今…自分達に何が起こっているのか…

伊織はそんな吉野の言葉に答えずに
キィン、と右手に剣を構える

「えっ?」戸惑う吉野に目もくれず
伊織は空に剣を向けた


『解除。』

その言葉と共に
伊織の剣から一筋の光が現れる

パァンと音を立てて弾けると
そこには…闇が混じり合う1つの穴が現れた


「それ…異空の回廊…?」

もちろん、研修に行ったことの無い吉野は初めて見た
外の世界に繋がる…マスターだけに認められた、異空の回廊

何故そんなものを、今開けたのか…

吉野が尋ねるより先に
「吉野。」伊織は吉野の方に振り返った


「これから言うことを、よく聞いて。」

切なそうに、だけど真剣な顔をする伊織に
吉野は何も言えなかった


「…ここから、外の世界に逃げて。」