名前の無い物語







伊織と陽斗が駆け出してからずっと
師範は…ただ前を見据えていた

立ち込める煙の向こう側
徐々に見えてくる…黒い人影


「…やはり君だったか、夏村。」

聞き覚えのある、師範を呼ぶ声
師範は一層顔をしかめた

「…やはりとは、最初から全て分かっていたようだな、鎖邊?」

煙から姿を現したのは、白髪混じりの老人
いつも身につけている白衣は、どこか汚れていた

老人ーー鎖邊はニヤリと笑う

「お主なら必ずそうするだろうと思っておった。やはりお主は甘いのう。」

「ふざけるな。」

チャリ、と師範は剣を鎖邊に向ける
その行為に、鎖邊はただ冷静に見据えていた


「お前の目的は何だ?何故吉野の心を狙う?」

師範の言葉に鎖邊はわざとらしく溜め息を吐いて
「実験じゃ。」と髭を撫でた

「光と闇…相反する2つの強大な感情をぶつけた時に起こる大爆発ーー『オーバードライブ』。それが起これば…世界はどうなるのか。わしはそれが見たい。」