名前の無い物語


彩夏は必死だった
毎日声をかけても、吉野の瞳に彩夏が映ることは無くて

段々無くなっていく滝川の居場所に、誰よりも彩夏は心配していた


「だから今回、アイツと喋れて少し喜んでる自分がいるんだ。こんな事にならなかったら、きっと俺はまだアイツに興味無かった。」

もし、足に怪我をしなかったら
きっと吉野はここには来なかっただろう

「…ありがとうございます、柚歌さん、海さん。」

駿介の言葉に、海と柚歌は驚きで目を丸くしたが
すぐに安心したように微笑んだ


吉野…聞こえてるか?
お前の居場所は…ここにあったんだぜ?



『最終種目、学年リレーを始めます。まずは一年生の方、準備をお願いします。』

その放送と共に
リレーの選手達が次々と入場してくる

そこには、アンカーの襷をつけた…吉野の姿があった


それを見つけた瞬間、クラスメートがざわめき出す


「あのアンカーのやつ誰?」

「川崎じゃねぇのかよ?」