名前の無い物語











「早いね、吉野君。」


時計台の最上階
大きな歯車の前で、語り部は吉野にそう言った



「いや…何か落ち着かなくて。」


あれから吉野達は、決まった時間まで自由行動として
ここに集合する予定だった



それは全て、柚歌の為



旅に出る前…あんなに世界に帰りたがっていた柚歌
世界に帰れた今…柚歌はもう一度旅に出てくれるのか

それとも…ここに残るのか


その答えを出すための時間でもあった



「落ち着かない、か…そりゃそうだろうね。」


全てを見透かしたような目に
吉野は一瞬恐怖を覚える



「気付いてるんでしょう?最近の…自分の変化。」


見透かされた気がした
その瞳に
何も映してなさそうな…碧色の瞳に



「…俺は、分からないんだ。」