「やばい!もうこんな時間か‼じゃいってくる!」

奏雲が慌てて玄関に向かい、急いで靴を履き、出て行く。

それから少し遅れて薫が家を出る。


学校は退屈だが将来の為に行っておかなければいけない。

今の世の中、中卒の人間なんて雇ってくれない。


無難な大学に行って無難な会社に入って親を周りを安心させる。

それが俺、井上薫の思う人生の生き方。


夢なんてない。

むしろ、夢を持っている人間の方が珍しいくらいだ。


薫は平坦な道を30分ほど歩いた。

「井上くーん!」

ようやく学校を認識出来るほど近づいた時、後ろから声が聞こえた。

吉田 かな。

幼馴染で高校も同じ。

なのにいつも俺を君付けで呼ぶ、変わったやつ。

「おはよー!今日さぁ、駅前の商店街に新しくお店出来たんみたいなんだけど良かったら行かない?」


薫の姿をみて走ってきたのか少し息を切らしながら佳奈がたずねる。

「有名な雑貨屋のチェーン店だっけ?俺も学校終わりは暇だったから丁度良かったよ。」

「本当?!良かったー!断られたらどうしよっかなって考えちゃった。ふふ。」


佳奈の笑顔に薫は少しドキリとした。

彼女の笑顔はみていて思わずこちらも笑顔になってしまうほど、素敵だ。


彼女の笑顔で母を亡くした自分がどれだけ励まされたか。