奈菜はあたしの頬を平手打ちした。
左頬がひりひりする





「どうして桜樹くんをフったの!?」


「ごめんなさい」


「なんで……。桜樹くんが苦しんでるのがわからないの!? 桜樹くんの気持ちはいいの!?」





奈菜は怖い形相をしていた。


陽と優……。

ふたりの人
あたしみたいな子にはもったいない……。


そして今、優の苦悩は計り知れない。

優の苦しみを思って改めて心が痛んだ






「でも優はわかってくれる……。気持ちが離れているのに付き合うのはつらいって知ってると思うから」


「あ……なんであたし絢に譲っちゃったんだろ」





奈菜はそう言って、あたしの平手打ちしたほうの頬をなでた。

“譲っちゃったんだろう”
……たしかにそうだよね。


奈菜は「痛かったでしょ……。ごめんね」と謝った。

違うよ奈菜……。
謝らなければいけないのはあたしのほう……。



優も奈菜みたいに怒ってくれたらよかった。


みんなあたしを、怒らない
あたしは守られてばかりで……





「ごめんね。たたいて……」


「ありがとう。あたし……もう陽だけなんだ。陽以外いらない」






屋上の重い扉のうしろで、優が声を押し殺して泣いているのがわかった。
だから奈菜は、なおさら怒ったんだと思う。

そして、「頑張れ」
……そういってくれた。

いつもいつも叱咤激励してくれる。





「奈菜。あたしがんばるから」


「うん! あたしは絢が大好きだから怒ったりもするんだよ? わかってね」





あたしは毎日、素敵すぎる人たちに囲まれている。


陽……
今、どこにいますか?



あたしは青空に


陽の幸せを祈り続けています