陽が悪いわけじゃない。
陽のお姉さんが悪いわけじゃない。

それなのに、どうして陽がこんな思いをしなければいけないの?






「俺、小6のとき初めてあの女に会ったんだけど……『あんたなんて産まなきゃよかった。産んであげただけありがたく思いなさい』って。そんな言葉を吐き捨てて二度と姿を現さなかった。冗談じゃねぇよな……。俺も生きたいなんて望んでなかった……。勝手に産んでおいて、そんなこと言われてさ。愛情って、普通は親から受けるもんだろ?」






あたしには育ててくれる優しい人がいる。
たとえ、お母さんしかいなくても、愛情をたくさんもらっている……。

大きくてあたたかい愛情を―――…。







「……心なんてなかった。俺にあったのは“孤独”、ただそれだけ。俺はどんなに“好き”って言われても、ぬくもりをもらっても俺の飢えは満たされなかった」


「陽……」


「寂しくて、苦しくて……毎日が不安で……」






普段からは想像もできない、弱々しい声。

無防備な陽……。
鎧をもたない陽だから、たくさん受け止めて傷ついてきた。


あたしは衝動的に陽を抱きしめていた。







「……今も陽は……」







あたしは言葉を詰まらせた。

すると陽は、あたしを抱きしめ返し……
首を横に振った。







「今は違う」


「……っ」


「俺には絢がいる。孤独なんかじゃない。初めてだった……。人の隣にいるだけで居心地がいいって思えたのは……。絢がいなかったら俺は、今の今まで最低だった……。だから……」






少し黙ったあと、
陽はあたしの瞳を真っ直ぐに見て、「大切にする」と優しくも力強く言ってくれた。


大好きな陽からの最上級の言葉。



あたしがそばにいることで陽がそう思ってくれるなら、
ずっとそばにいる……。

心からそう思ったよ―――…。


だって陽はあたしにとって、大好きで大切な人。
あたしはずっと、陽のそばにいる―――…。