『それにしても、相変わらずの手際の良さだったな、今日も。』

『クスッ…何回同じ事やらされたと思ってんのよ?』

『ぁあ、そうだったな。』


智愛はいつも、ストーカー行為に悩まされている兄のためにいつもこうやって家を貸したりしていた。


『兄貴はさ…芹那が男嫌いになった理由、知ってんの?』

『いや…知らない。それは芹那ちゃんが話してくれるまで待つことにしたんだよ。誰にも、思いだしたくない記憶くらいあるだろ。』

『まぁ、そうだけど…。』


2人の間に、暫しの沈黙が訪れた。


『……兄貴も大人になったね。』

『は…?』

『前は、見つめられただけでケンカ売っちゃうような、クソヤンキーだったのに。』

『おまっ…!それ、芹那ちゃんに絶対言うなよ!』


芹那には1番知られたくない自分の過去を言う智愛に、焦る郁人。


『何でよ。昔ヤンキーの総長で、関東地方では1番強かったってことくらい教えても良いでしょ?』

『ばっ…!?そんなこと言ったら…!!』

『…何、芹那に嫌われるとでも思ってんの?』

『………』


図星を突かれ、何も言えなくなる郁人。

到底この会話では、郁人の方が兄だなんて、誰も思わないだろう。

それくらい、智愛はしっかり者だった。