「おっと。朔君、そこの段差に気をつけてくれたまえ、ほら」


実際、伊藤さんはちょっとした段差でさえ私に気を使って注意をしてくれるだけじゃなくて手も差し出してくれるのだ。

私はその手を取って、少しはにかんだ。

こうやって、他人にいたわってもらえるなんて今までなかったものだから、正直戸惑う。


「ありがとう、ございます」


「なに、礼には及ばないさ。なんせ君は見ていて危なっかしいんだ。コロコロ転がっていってしまいそうでね」


……まぁ、こういう冗談を言うところもモテポイント、ってやつだよね。


「そんなことありません。私だって、決めるところは決め――………わ!」


む、として相手を見つつ、力説使用とすればぐらりと傾く体。

どうやら、私の手を引く伊藤さんがその手に力を入れたようだった。

そして、簡単にすっぽりと伊藤さんの腕の中。

決めようとした瞬間に、これだ。


「ん、何だって?」


ドキドキする鼓動を無視して、伊藤さんを見上げる。


「こ、これは伊藤さんのせいじゃないですか。普段はこんなじゃありませんし……!」


「そうかね?聞くに、君はこの寺の前にある階段でさえも大変そうに登るって言うじゃないか」