「んー……ちくしょ、俺を待たせやがって……」


いや、え?

私の頭がパニックに陥った。
高杉さんに引かれたままの右手はなんか熱くて、もう片方の手は行き場をなくして空中を泳いでて。

狙ったかのように耳元で囁く高杉さんの声がかすれてて、尚更体が固まった。

だって、色っぽいんだもの。
眠いときって、声が少しかすれちゃわない?

あんな感じの声で、私の心臓がドキーッと一回だけ大きく跳ねた。


「朔ちゃん……どうか、そのままで、……っ」


ぷっと桂さんが吹き出した。
タチ悪いなこの人。


「っ……き、聞いてもらえるかい?」


「……はい」


「いいかい、僕らは君の言うことを晋作ほど素直に聞き入れる事は出来ない。何せ、時を渡るなんて非現実的過ぎるしね」


「はい……」


つい、声のトーンが落ちた。
そして私は、気付かぬ間に高杉さんの着物をギュッと握っていたらしい。


「あぁ、そんな顔をしないで」


明らかに落ち込む私を見てか、桂さんは眉尻を落として薄く笑った。


「でも、頭――……晋作は簡単に君を信じてしまった訳だよ。だろう?晋作」


「ったりめぇよ――……時を渡るくらい、信じてやらぁ……」


「……っていうバカな頭……いや、懐がでかい頭なんだよ」