そっと唇を離し、小さく息を吐いた高杉は朔の顔をじいと見つめた。

その表情は、悲しげに歪められる。


「何があった」


問い掛けに答える声はなく、空気に溶けて消えた。


「お前は一人で何を抱えていやがる」


朔の寝顔が、少しばかり歪む。

先程まで、とても気持ち良さそうに寝ていた顔がだ。


「おい、朔―――――…………」


いつからだろうか、ふとした瞬間に線を引き距離を置く朔に気づき始めたのは。

一度気付くとそれを見付けるのは容易く、その度に「どうしたんだ」と聞くことのできない自分に歯噛みする。


本当に、本当にいつからだったのだろうか。

朔のことを、もっと知りたいと思ったのは。


「高杉君?」


すっと襖の開く音が聞こえ、同時に部屋の中へと足を踏み入れたのは伊藤だ。


「まだ冷えるだろう。君だってもう万全だとは言えないんだ、早く部屋に――……嗚呼。そんな顔をしないでくれよ」


「……るせぇ。てめぇの体のことだ、てめぇがイッチバンわかってらぁ」


「なら、」


首を振った。

伊藤は口を噤み、こちらを見る。


「―――――…………あと少しだけだ」


その言葉の意味はなんなのだろうか。

幾重にも張られた高杉の言葉を伊藤が全て理解できる筈もなく、ひとつゆっくりと頷いて見せてから襖を閉じる。


"あと少し"だけ、か。