ひげもじゃ神さまは、こくもつの神さまです。
 こくもつとは、お米や小麦、とうもろこしなどのことで、神社の名前も漢字の『米』をくずした『八十八神社』と言います。


 八十八神社は東北地方にあり、雪深く長い冬が開けて遅めの春がやってくると、すぐに田植えの季節が始まります。
 広大な田んぼのあちらこちらに水がたっぷりと引かれて、すぐそばのもりあがった土手の内側で、待ってましたとドジョウがはしゃぎ始めます。

 この頃になると、農家の人々は秋の豊作を祈って、もちやだんごなどの供え物を代わりばんこに置いていくようになるのです。



「るすばんの間、供え物は全部くれてやるぞ。キクさんのあまからせんべいも、ヤスコさんのよもぎもちも、ダイゴさんの奥さんのごまだんごも、み~んなうまい。今回は縁起をかついで八十八日間の旅行にするでの。その間、みーんな食べ放題じゃ」

「やるやる! おいら、るすばんやるよ」

「ほうか。それじゃ、よろしくの」


 米つぶほどの鳥居もようがたくさんついた大ぶろしきをきゅっと結び直して、ひげもじゃ神さまはほくほくと出かけていきました。



 みえちゃんが初めておまいりにやってきたのは、その三十分ほどあとのことです。