はだかの王子さま

「お父さん、掃除の途中で、お仕事に行っちゃった……のかな?」

 目の前に、泡のついたお風呂用デッキブラシが転がってる。

 その、どうってことのない光景に、わたしは,ドアを閉めかけ……止めた。

 なんでもない光景に、ますます変だな、と『感じた』からだ。

「……お父さんは、朝、お仕事に行ったんだよね?」

 ……だけど、掃除用デッキブラシに『泡』がついてる。

 泡って、普通すぐ消えるはずなのに。

 今日から残業は決定のはずの、忙しいお父さんが、ついさっきまでここにいた、のかな?

 ……って、そんなはずないじゃない!

 わたしは、一歩お風呂場から下がった。

 じゃあ、ウチに勝手に入って来た……泥棒さん!?

 ……って!

 どこの世界の泥棒が、お風呂掃除なんてするのよ!

 わたしが、もう一歩下がった時だった。



 ……かたっ!



 うぁ……今の音、何!?

 軽い、小さな音の出どころを見れば、それは……


 デッキブラシが、ひとりでに、勝手に動いてる!