わたしがあげた声を無視して、王さまは狼の二本の前足で、それぞれゴブリンたちを踏みつけた。
そして、お父さんを睨(にら)む。
『フルメタル・ファングよ。
そなたは、ビッグワールドでの成人、百才を迎えたばかりの若僧が、などという陰口を完全に押さえ。
貴族の中でも最大の領土と財力をもつ筆頭侯爵として、申し分なく王家に尽くしていた。
先の魔剣0の争奪戦においては、数万の候補者を蹴散らして主となり。
剣の使い手として一級であることを世間に知らしめた上。
王室書庫の書物もほとんど読破、知識を吸収し……
王家の一番の臣下として、これ以上頼もしい男は他にないと思っていたのにのぅ。
そなたの言動がおかしくなって来たのは……大体、十年より少し前ぐらいか?』
王さまは、少し遠い目をして言った。
『そなたが、魔剣0で、異世界の壁を切り裂いて、フェアリーランドの大扉の元をつくり。
ゼギアスフェルが前王夫妻の暗殺に成功した頃だ。
ヒトには戻れぬただの獣になり下がった、ゼギアスフェルについて、こちらの世界に来る、と突然言い張った頃だ』
ま。フルメタル・ファング(そなた)が、ゼギアスフェルと『友』と言って良いほど懇意(こんい)にしていたことは、知っていたし。
盗賊ゴブリンの子どもたちの命乞いなど、そなたが、情に流されやすい性(さが)を持っていたのは知っていたからのぅ。
その時は、またそなたのことだ。
情に流され、面倒事に片足を突っ込んでいるな、と思えた。
前王からの信任も厚く、シャドゥ家を使い、裏で何かしら暗躍してたのは知ってたが、我が兄弟の味方だと信じていたし。
新王となった我に反逆の意志は無いと思ったから、そなたのわがままを聞き。
役目も領土も剥奪せずに、こちらの世界にゼギアスフェル共々追い払ったのに、と王さまは、喉の奥で嗤った。
『それは、全く違ったのだ』
そう言って、王さまは、前足で踏みつけていたゴブリンの一匹を、こちらの方に蹴ってよこした。
『デッキブラシ君!!』
わたし、そのゴブリンを呼んで、地面に叩きつけられる前に、なんとかキャッチして!
ゴブリンの様子を見て、眩暈を起こしそうになった。



