長い髪で、蒼のセイラの表情は、良く判らない。

 けれども、まるで、泣いているような声に、覇王は満足げにうなづくと。

 次に覇王は、まるでカラダの中のわたしを抱きしめるように、自分の肩を自分で抱きしめた。

『娘。
 短い間であったが、世話になった。
 きっと……少し怖がらせて、しまったな』

『……覇王』

 苦しい運命を背負い、けれども愛しい人をみつけ、最後は穏やかに生涯をとじたのかもしれない。

 水のように、澄んで、強く。

 けれども案外優しく、暖かいココロがじんわり胸に浸み渡る。

『そなたは、この時代に生きる妾、じゃ。
 幼きころより賢き男に、その忌まわしい力を封じられ。
 今まで傷つくような愛には晒(さら)されずに済んだがの。
 その身全てを預ける、愛しい男には……もう出会っているな。
 ……カラダは弱い方じゃが、グラウェの濃度を調節した寝屋から、一歩も出られぬ、ということもない。
 これから先も、波乱万丈な運命(さだめ)が待っていようとも、妾より酷いことにはならぬだろうよ』

 覇王は屈託なくころころと笑った。

『妾が生きた時代から、もう、どれだけ月日が経ったのか。
 その身につくカビでさえ、化石となりそうな古い記憶としがらみは、全て妾が引き受ける。
 そなたは、そなたの時代で思うまま、自由に生きればいい。
 まだ十六になったばかりだろう?
 短命であるらしい、こちら側の基準に従ったとしてもまだまだ子どもじゃ。
 持てる力に支配され、妾と同じく『覇王』と呼ばれる者になるか。
 あるいは。
 愛しい男との間に子どもをつくり、歴史の片隅で、静かに生きることになるか。
 それは、誰にも判らぬがのぅ』

 上機嫌でひとしきり笑うと、さて、と両手を腰にあて、覇王は、胸をそらせた。

『娘。
 始まりも、終わりも否応なく、突然で悪いが、の。
 そろそろ、そなたの賢くも莫迦な男を起こして、偽物のゼギアスフェルのカラダを砕いては、くれまいか?』

『……賢く……莫迦な男?』

 ワケも判らず、聞き返すと、覇王は、楽しそうに笑った。