はだかの王子さま

 そして。

 わたしは、星羅に向かって手を伸ばしたまま。

 こちら側とビッグワールド、二つの世界の一線を越える……

 四頭だてのユニコーン達が、扉を越える。

 四輪馬車の前輪が、枠を軽く跳ね上げ扉をくぐり抜けてゆく。

 それから……わたしがビッグワールドへ。

 ……星羅が、離れてゆく……!

 離れて行ってしまう!

 ぶわっと改めて出て来た涙が、視界を塞いで、扉の向こうにいる星羅の姿が滲んで消えた……

 と、思った時だった。

 わたしたちの世界の方から、一迅(いちじん)の夜風が吹いたようだった。

 ……ううん。

 良く見れば。

 黒い服にマントを深くかぶり、顔を隠した男のヒトが、一人。

 手には、細身の剣を持ち。

 パレードの列を乱して、ビッグワールドに突っ込んで来たんだ。

 本人は無口。

 けれども。

 きんっ!

 こんっ!

 って言う、やけに澄んだ音と。

 わあああっと言う大勢の叫び声を引き連れて来たところを見ると、その剣一本で、フェアリーランドの広場を強行突破して来たらしい。

 扉まで飛ぶように身軽に走って来た、そのヒトは。

 扉を通り過ぎてゆく寸前。

 たった一言、つぶやいた。

『0、ドラゴンバスターソード』

 え?

 0って!

 お父さん!?

 と思う暇もなかった。

 黒いマントの男が持っていた細身の剣が、突然輝いたかと思うと。

 細身の剣は、薄く蒼く輝く白銀の、ものすごく太く長い刀身のある剣に変わった。

 もしかしたら、三十センチ以上の幅を持ち、長さに至っては一メートル五十センチ以上はあるかもしれない。

 お父さんは、そんなごっつい剣を軽々と振り回す。

 すると、次の瞬間。

 がきんっと言う音が響き。

 星羅の首輪と鎖がひとまとめに一刀両断された。

 凄い……!

 あんな大きな剣を振り回したのに、星羅自身には、一筋の傷もない……!

 しかも、たった一回で、ちゃんと斬れるのを確信していたのかどうか。

 星羅の首輪を斬ったのは、まるで、そこを通るためのついでみたいだった。