はだかの王子さま

『ゼギアスフェルは、今日一日、そこで手を穿たれたまま、門番の代わりを務めておれば良いのだ』

 ああ、そのままでは、フェアリーランドの開園中は目立つゆえ。

 ゼギアスフェルの大好きなシャドウ家特製、見えなくなる『糸』をたっぷり使ったマントを着させておけ、なんて!

 意地悪く笑って、侍従に命令を下す王さまの袖口を、わたしは、引っ張った。

 それは一日中、傷の手当てもせずに、立ちっぱなしってことだ!

『なんで……っ!』

 そんな酷いことをするのよ!

 思わず、涙目になって抗議すれば。

 王さまの目の奥が、ギラリと光った。

『ゼギアスフェルを解放すれば、そなたを追って来るだろう?
 鎖でその身が縛られようと、首輪で喉をふさがれようと、異界の扉を越えて、地の果てまで追うだろう。
 ……だから、一日経って扉が閉まり、すべてが手遅れになるまで、そこに繋いでおくのだ。
 その本性が、金の毛皮の狼とはいえ、所詮は、犬。
 番犬には、丁度良い……』

『王さまの莫迦……っ!』


 このヒト、絶対嫌い!!!


 パレードの列は、順調に扉の向こうに吸い込まれ。

 わたしの乗った馬車も、ゆっくりと動き出している。

 この世界と、ビッグワールドを隔てる扉が近づいて来る。

 星羅が近づいて来る……!

「星羅!!!」

 わたしは、叫んで、馬車から飛び降りようとした。

 星羅の自由を奪う鎖がイヤだった。

 喉をふさぎ、声を奪う首輪が悲しかった。

 せめて。

 せめて、その扉に打ちつけられ、まだ血を流し続けてる左手をなんとかしたかった。

 わたしは、まだ食事がとれず、少し動いただけでめまいが押し寄せて来たけれど、そんなの関係なかった。

 ただ、まともに立てなかったから。

 王さまを押しのけて、馬車から転げ落ちようと、身体をひねった。

 けれども。

 王さまは、あっさりわたしの腰を捕まえて、抱きしめた。

『逃がさぬよ』

「星羅ぁ!!!」

 馬車が動く。

 星羅が通り過ぎてしまう……!

 わたしの叫び声を聞いて、自分の手を外そうと、がたがたと、扉の縁(ふち)を揺すっていた星羅も手を伸ばしたけれど。

 その手は、だいぶ離れて、とどかなかった。