はだかの王子さま

「私は、あなたにかなり、ヒドいことを言ったり、した覚えがあります。
 あなた、私が怖くないんですか?」

 うん、風ノ壁で跳ね飛ばした時のことだ。

 あの時は、かなり高くまで、放り投げられたし、まだ、身体中が痛いけれど。

 ……でも、わたし、ハンドの事情知ってる。

 白薔薇宮殿の窓越しに、ハンドが美有希と話してたことを聞いていたから。

 だから、別にハンドのこと。

「怖くない……かもしれない……」

 そんなわたしの言葉に、無表情なハンドの口元が、ちょっと嬉しそうに曲がった……ような気がした。

 けれども、それが幻だったかのように、表情を元に戻すと、ハンドは言った。

「では私に大人しくついて来ていただけますね?」

「う……うん。
 ここから、逃がしてくれるなら……星羅の所に連れて行ってくれるなら……!」

 必死にうなづくわたしに、ハンドはふっと息を吐いた。

「そうですか。
 こんなに、大人しく従ってくれるなんて、意外でした。
 これなら『ヴェリネルラのワイン』を持ち出さなくても、良かったです」

「え?」

「ここで、王があなたに『ヴェリネルラのワイン』を飲ませたら。
 あなたは、確実に王妃になってしまうからです。
 だから、貴女は、わたしについて来るしかないんですが」

 ……ウソ!

 なんで、そんな大事なコトをさらっと言うのよ!

 わがまま王の王妃、確実なんて! そんなの、絶対イヤよ!

 ハンドは、わたしが自分を嫌がって逃げ出そうとした時。

 絶対、付いてこさせるための保険だったなんて、言っていたけど!

 ハンドは、わたしの手を取ったかと思うと、ひょい、と横抱きに抱え上げた。

「うぁ……きゃ……」

 あっという間に、ハンドの腕の中に収まってしまったことに驚いて、上げた悲鳴も、やっぱりハンドの風に塞がれる。

「ハン……ド!」