はだかの王子さま

『我の話など、信じないと言われてもしゃくだからな。
 フルメタル・ファングが到着次第、ヤツの前でしゃべってやる』

 こういうのを、こちら側の世界では、名探偵の謎解き、とか申すのではなかったか?

 なんて、一人でくすくすと笑うと目を細めて扉の方を見た。

『それにしても、ソドニは、遅いな。
 ま、それより先に、そなたの食事か?
 ソドニの様子を見ながら、そなたの所望のワインを取ってくるか』

 王さまは楽しげに、軽くベッドから立ち上がる。

 そして、部屋から出てゆく寸前、ちらっとわたしを見た。

『そなたは、ここで大人しく待っておれ。
 よもや、逃げ出そうなどとは考えておるまいな?
 我が不案内のこちらの世界だったら、無事に逃げおおせるとは思わない方がいい。
 我には、こちら側に詳しい臣下が大勢いるからな。
 のう? 我の美しいヴェリネルラ』

 むむ~~

 わたしが何を考えているかなんて、丸バレみたい。

 王さまは、そうやって釘を刺すと、今度こそ、部屋を出て行き……その気配がなくなった途端。

 今度は、出入り口も窓もない、ただの壁の辺りから、いきなり、ぽん、とヒトが現れた。

「フルメタル・ファングさま……いえ。
 内藤鋼牙さんの娘、内藤真衣さんで、間違いないですね?」

「………!」

 変わってしまった顔に、今一つ自信がなかったのか。

 出現者が、わたしを確認する声は確かにわたしには聞こえたけれども。

 その、まるでびっくり箱を開けたような出現の仕方に、確かに上げてしまったわたし自身の悲鳴は、風の塊に散らされて、自分の耳には届かなかった。

「ハ……ハンド! なんで、ここに!?」なんて、突然現れた人物の名前を呼ぶ声も。

 けれども、シャドゥ家の次期当主ハンドには、わたしの声が聞こえたみたいだった。

「あなたが、そんな姿を隠していたなんて、知りませんでした。
 そして、私の名前を呼んでいただけるとは、もっと、思いませんでした」

 わたしがここにいることは、砂糖壷さんとデッキブラシ君に聞きましたとも言って、ハンドは、濃い色のサングラスの上の部分から、形の良い眉毛を、ひょいと跳ねあげた。