はだかの王子さま

 わたしは、声に導かれるままに、自分自身の手を握ると、低く震える声を出した。

『欲しいもの、ありました』

『おお、それは何だ?』

 何でもいいから言ってみろって、機嫌良く言う王さまに、わたしは、こくんと唾を飲み込むと、言った。

『ヴェリネルラで出来たワインを……ください』

 そう言ったとたんに、王さまの機嫌は、更によくなった。

『そうか、そうか。
 ヴェリネルラのワインは、真に高貴なるものの証。
 王と王に近しい継承権をもつ者か、あるいは王妃にしか飲めない貴重な酒だ。
 それを所望すると言うことは、今すぐは無理でも、いずれ。
 そなたは、我のものになる、と言うのだな?』

 えええっ!

 そうなんですか……?

 なんか『ヴェリネルラのワイン』って意味、良く判らないまま、声の通りに言ってみたけど……っ!

 コレって、ちゃんと逃げ出せなかったら、わたし、更にピンチになるんじゃないのかな?

 青ざめるわたしに気がつかず、王さまは言葉を続けた。

『フルメタル・ファングは、策士だからな。
 ヤツが関わっているとなると、そなたは、ゼギアスフェルの本当の正体を知らずに付き合っていたのではないか?
 そして、ゼギアスフェルの方も、そんなに神経が太い方でも、厚かましいヤツでもない。
 そなた、自分の顔に、見覚えがない、と言っておったな?
 大方、ゼギアスフェルもフルメタルファングに惑わされたか、そなたの真実を伏せられたまま。
 姿でも変えた状態で、付き合わされたのではないか?
 そならば、なたたち二人が付き合っても、良いことは何もない。
 そなたは、我を選ぶのが、正解だ』

 ……って!

 王さまは、一体何を言っているんだろう!?

『星羅の正体?
 わたし自身の、真実……?
 そんなの、知らない』

 そう呟くわたしに、王さまは、星羅の姿のまま、ほほ笑んだ。