はだかの王子さま

 王さまは、ベッドの上で、半身を起こしてたわたしの背から、クッションをどかし、そのまま押し倒した。

『そなたに見合うだけ、有り余る富を捧げれば良いか?
 美しく、珍しい宝石や、ドレス?
 それとも、緑豊かで景色の良い領地?』

 片手を手首に。

 そして、もう一方の手をベッドに倒れるわたしの肩のあたりにつけば、月光の長い金髪が、さらさらと音を立てて、わたしの胸に、流れて落ちた。

『我の持ち物は、すべてそなたに譲ろう、この身も心でさえも。
 今、我が持たぬ物が欲しいと望めば、そなたのために奪ってきても良い。
 だから……だから、この世に二つと無き、美しいそなたよ』

 王さまは、そう切なげにうるんだ瞳を細めて、ゆっくりとそのカラダを沈み込ませてつぶやいた。

『我のものとなれ』

『イヤ……!』

 わたしには、本物の星羅が一人だけ、いればいい。

 例え、どんなお金持ちでも。

 星羅と似た姿の偽物なんて、絶対いらない!

 そう、叫んで逃げ出そうとするわたしに、王さまは体重をかけてのしかかって来た。

 嫌だって言ってるのに、聞かず。

 強い力で押さえつけられて、どんなに暴れても上手く身動きが取れないなんて!

 イヤだって、じたばたと首を左右に振り、唯一、わずかに逃げ回ることのできた顔も、王さまの唇で追われて絶体絶命、最悪な危機だった。

 部屋には、王さまとわたしの二人きりで。

 すぐに、ソドニに連れてこられるはずのお父さんの気配もなく。

 絶体絶命の乙女を救うべく、白馬に乗った王子の星羅が突然やって来る要素なんて、一つもなかった。

 泣き叫ぶ悲鳴も果てて、目の前に迫る、偽物の星羅の顔を前に、もはや息を飲むしかなくなったわたしの唇が。

 少し開いた口の奥に、紅い舌のうごめくのが判る王さまの唇で塞がれた。