はだかの王子さま

 その声に、王さまは、ぎゅっと眉間に力を込めた。

『ローザか? 何用だ!?』

『な……何用と申されましても』

 メイドさんも王さまの予定は、当然知ってるはず。

 一瞬黙ったメイドさんに、王さまの眉間のシワが、ますます深くなった。

『約束の時間には、早い。
 あれはただの遊び女(め)ではなく、フルメタル家の当主だろう?
 色事を前に準備もせず、遊びに来たわけでもあるまい』

 そう言って、王さまは、わたしの方を見た。

『……そなたを、探しに来たのか……』

『王よ』

 心配そうなソドニの声に、王さまは手を握り締め、ぐいと頭を上げた。

『フルメタル・ローザに伝えよ。
 我にその気は無くなった。
 帰れ。そして、ゼギアスフェルと共に役目を果たせ、と』

『いけません、王よ!
 約束は、罪に対する罰だと王が自ら言い、大勢の民たちの前で交わされました。
 なのに破棄などと!
 これでは、フルメタル家と、娘を王に譲ったゼギアスフェルさまの面目と立場がございません!
 何もせずとも、一晩は寝所にお迎えせねば……』

 ビッグワールド最大の貴族と、現在王位の第一継承権を持っている『王子』を敵にまわすおつもりですか、と叫ぶソドニに、王さまは、笑う。

『フルメタル家は『罪』を負い、現在謹慎中だ。
 失う面目は、もうないだろうよ。
 そしてゼキアスフェルは、いつだって我に従う。
 従順に』

 だから、見よ、と王さまは笑う。

『ゼギアスフェルは、我が命に従って、前王を宮殿ごと燃やし、全てを灰に返したではないか』

 そのためにあんなに美しい、ヒトの姿を失おうとも。

 前王を排除し、我を玉座に押し上げた礼が、こちらの世界への追放だとしても、文句ひとつ言わずに従ったのだって、王さまは言った。