はだかの王子さま

 確かなものは何もなく。

 何もかもが不安定で、怖かった。

 眺めていた鏡に、ぽた、ぽたと水滴が砕けて散って、ああ、わたし泣いているんだな、って思ったけれど。

 鏡から見つめ返すのが、明らかにわたしの顔じゃないんだもん!

 とても不安で心がちぎれそう……

 しっかりしなくちゃ、って思ってはみたものの。

 でも、どうすることも出来なくて。

 止まらない涙に、驚いたのか、ビッグワールド王は、オロオロとわたしの顔を覗き込んだ。

『そなたが、どのような人間でも良い。
 困り事があれば、相談に乗ろう。
 なるべく便宜を計ってやる。
 行く場所がなければ、我の屋敷に留まれば、良い。
 そなたが、望まぬ限り、無体なことは、決してせぬゆえ……』

 これが、ビッグワールド王の優しさ、みたい。

 とても、不器用に言葉を紡ぎ、なんとかわたしの涙を止めようとしてくれたんだけど……どうしても無理で。

 恐る恐る『ゼギアスフェルさまか、フルメタル・ファングさまにご連絡をお取りになったら……』と進言するソドニをぐいと睨んだ。

『我は、この娘が気に入ったのだ!
 なるべく、我の手の内に留めておきたい。
 しかし、あやつらに任せると、なにやかや理由を付けて、連れて行こうとするだろう?
 この娘の姿を見よ!
 ゼギアスフェルが夜空に輝く星と月光ならば、この娘は陽の光だ。
 フルメタル家の当主のように簡単に手に入るとは思えない』

 もちろん、最後は誰が何と言おうと我がものにしてくれるが、面倒なのは確かだ。

 そんなコトを言って拳(こぶし)を握る王さまに、ソドニは言った。

『しかし……!
 せめて、事情だけでも知っておかねば……』

『うるさい! 黙れ!』

 王さまが、わがままにソドニを怒鳴りつけた時だった。

 メイドさんって言うのかな?

 お手伝いのヒトが、恐る恐る王さまに声をかけた。

『フルメタル・ローザさまが、おいでになりました。』