『……く……そ……!』

 セイラはもう一度呻くと。

 凄い至近距離で、わたしを覗き込んでいた瞳を一旦、ぎゅっと閉じ、次に目を開いた。

 その瞬間。

 瞳の片方が、いつもの琥珀色に戻る。

「星羅……っ!?」

 わたしの声が、届いたのかどうか。

 ソファベッドの上で、わたしにのしかかっていた星羅が、のけぞるように離れた。

 そして、彼は、よろよろと立ち上がると、まだ赤く光っている方の瞳を両手で押さえて、呼んだ。

 わたしの名を。

「……真……衣……!」

『ヴェ…リ…ネ…ルラ』

 聞き慣れた、星羅の声に重なるようにして、別の声も聞こえ……た?

 セイラはその蒼く長い髪を振り乱して、カラダを丸めると、低くささやいた。

「この……っ! 真衣が……泣いてる……!!
 お前は……っ!
 僕の中から出て行け……!」

『くそ……!
 俺様だって、てめーなんざ……っ、大嫌ぇだ!!!
 ヴェリ……ネルラ……も……泣かす気なんざ……ねぇ!!』

 まるで、一つのカラダに二人分の魂が入り込んで、ケンカしているみたいだ。

 やがて、器になっている蒼いセイラのカラダが、ファミレスで狼の腕を見せた時と同じように輝いた。