そう言えば、星羅とファーストキスも、まだだったって思い出し。

 セイラは、夜中まであった熱とは種類の違う、甘い熱に浮かされたようだったのが、怖かった。

 見れば心臓が激しく暴れるほど、艶っぽい表情でわたしに迫る。

 蒼く長い髪が、一房。

 さらさらとメタリックな音を小さく立てて、わたしの胸に流れて落ちてゆく。

 きっと、これは、最後まで、止まらない……


 涙が……出た。


 わたしの悔しくて、悲しい思いがたくさん詰まった透明の液体が。

 溢れる感情に耐え難く、つぃっと一滴。

 ほほを流れて、わたしを押さえつけるセイラの手に落ちた時。

 今、まさに。

 わたしの唇に、唇を重ねようとしていたセイラが、止まる。

「う……ぁっ……く……っ……
 ……真……衣……?」

 苦しげな、獣の唸り声と一緒に、星羅が蒼い髪になって初めて、わたしの名を呼んだ。

「……星……羅……?」

 一瞬前にぎゅっと閉じた目を、恐る恐る開けば、セイラのキレイな顔がすぐ近くにあった。

 見開いた、セイラの切れ長で赤い瞳は、まるで鏡みたいだった。

 わたしの怯えて、涙がいっぱいたまった顔を映し出し……

 それは、きっと、星羅も見ている映像だった。