美緒が坂井のアパートに来るようになって三週間が過ぎた。
 毎日足しげく通う美緒を、坂井は文句ひとつ言わず迎え入れた。
 相変わらず特に何をするでもない日々の繰り返しだったが、一緒にいるということが別段不快だという訳でもないし、最近はそうあることが当たり前にすらなっていた。

「私ね、小学校のとき一回死にかけたことあったんだ。そんなに深刻な話じゃないんだけど、あのときは危なかったなあ……」
 美緒は子供の頃の話をよくする。
 一緒に遊んだ友人の話や、受験の為塾に通っていたがちょっとサボって父親に怒られた話など、本当に誰もが持っているエピソードなどを楽しそうに話す。
 坂井はそれらの話を聞きながら、自分にも同じようなことがあっただの、共感を覚えることを一緒に話す。
 不思議なことに、美緒との会話のタイミングは絶妙だった。
 昔、学生時代に、どうしても会話がかみ合わない友人がいて、なんとなく不快な気分を覚えたことがあった坂井だが、美緒にはそういったことが一度もなかった。