次の日から美緒は、学校が終わると坂井のアパートに来るようになった。
 来たからといって何をするでもなく、本を読んだり、たわいもないことを喋ったりするだけで、7時か8時になると家へと帰っていく。
 学校内で見る美緒は大人しく物静かで、必要なこと以外は喋らないという印象が強かった。いや、強かった……というよりは、印象というものがほとんどなかったといった方がいいかもしれない。
 しかし、坂井のアパートに来る美緒は自分のことをよく喋った。
 友人のこと子供の頃のこと学校でのこと……そして、喋るだけでなく坂井の話も楽しそうに聞いていた。
 学校中の外で受ける印象の違いに坂井も始めは戸惑ったが、その戸惑いをおくびにも出さなかった。
 自分の感情を表に出したとき、このゲームは終わりなのだと、坂井は本能的に悟っていた。

 そしてそれは、ときおり挑戦的な視線を放つ美緒との無言のルールだった。