いざよいの月

 月の明かりに照らされ、夜道も暗さはほとんどなかった。団地も大きくなったせいか、街灯も増えているようだった。
 けれど子供の頃はこの道がすごく暗く感じ、日が沈むまで遊んだときは走って自宅に帰った。そんな思い出話を、美緒は笑顔で坂井に話して聞かせた。
 月明かりの中を坂井を二人で歩く。
 夜風は心地よい具合で肌を駆け抜ける。そのなんとも言いがたい感触を堪能するように、美緒は軽く瞼を伏せた。

 ずっとこのまま二人で歩き続けられたら……しかしそう願っても、それは叶わないものと知っている。