いざよいの月

「あの向こうの団地か?」
 坂井が指した方向は、闇夜の中、機械的に並んだ光が集まる一集だった。
「うん」
 なつかしい光。8年ほど前美緒はあの光の中にいた。
 美緒が住んでいた頃と違い、建物の棟は倍ほど数が増えて、古い棟は外壁を塗り替えられているようだった。けれど美緒の住んでいた棟はちゃんと残っていて、その上には蒼い月が光を放っていた。
 満月の日に行けるかどうかわからないと坂井が言ったとおり、十五夜は昨日。今日は十六夜だった。
「あのときと同じ場所。ここで月を見つけて家に向かって歩いてたんだ」
 一歩ずつ歩きながら、美緒は坂井に語りかける。
 坂井はそれをただ頷いて聞くだけだった。