いざよいの月

 今まで坂井からこんな風に誘いを持ちかけることなどなかった。坂井から……というよりも、お互いにこのような会話をする

こと自体初めてだった。
 二度目に坂井が聞いたとき、美緒の表情が一瞬こわばった。しかし、またいつものように坂井の目をまっすぐに見つめると

、小さく息を吸い込み口を開いた。
「行く」
 短く……しかしはっきりと言葉を返した。
 多分そのときの美緒には、その短い言葉を返すだけで精一杯だったのかもしれない。
 坂井から切り出したことだった。しかし坂井自身にも、なぜ美緒にそのようなことを言ったのはわかっていなかった。


 少しずつ二人の関係が形を変えていく。
 音もなく、なんの振動すら与えることなく……けれど確実に変化する。
 しかしそれは同時に、この奇妙なゲームの週末を予感させるものだった。