自分をみつめる誰かの視線。
 次第にそれは授業中を抜け出し、学校内の廊下、階段、校庭と、徐々に範囲を広げ始めた。
 そして学校の外でそれを感じたときに、初めてその視線の主と、意味するものがわかったのだ。

「こんばんは先生」
 それは5月の終わり。学生時代の友人たちと久々の飲み会に行った帰りに、坂井の前に姿を現した。
「……お前」
 突如目の前に現れた見慣れた影に、坂井は言葉を途中飲み込んだ。
 そして自分を見上げる深い色をした瞳と視線が合った瞬間、坂井には今まで見えなかったものが、すべて見えたような気がした。
「お前……だったのか?」
「やっぱり……気がついてたんですね」
 視線の主は、まるで陽だまりで休む猫のように目を細め、ほんの少しだけほほえんだ。