いざよいの月

 今まで坂井は美緒を視線で会話をしてきた。
 言葉は交わさなくても、目を見れば言いたいこと、考えていることがストレートに坂井へと伝わっていると美緒は思っていた。
 けれど今、二人は視線を合わせてはいない。けれど美緒が考えていることを、坂井はわかっていると思った。

 同じ空間を共有するだけで伝わるものがあるということ……美緒と坂井は多分、今同時に知った。

「夏は風がよく通るし、冬はよく日が入る。俺がその窓気に入ったわけわけるだろ?」
「……うん」
「それにもうすぐ、そこから月見が出来るんだぞ」
「月?」
「ああ」
 美緒はもう一度窓の外に目を向ける。
 茜色の空に、少しずつ夜の影が降り始めてきていた。