いざよいの月

「なんだ？　俺の顔に何かついてるか？」
「……え？」
　視線がいつものそれと違うのを感じ取ったのか、自分を見つめる美緒に対し坂井は珍しく反応した。
　それに美緒は一瞬うろたえたが、その後は特に何も言わなかった。
　そんな美緒の姿を見ながら坂井は何も言わず、出窓に冷えた缶コーヒーを置いた。
　美緒は目の前に現れた坂井の手を見て、少し驚いたように口を開いた。
「……手」
「あ、これか？　今日プリントを句あるとき紙で切ったんだよ」
　そう言って坂井は美緒の前に人差し指を掲げた。
　第一間接から爪の先へと向かって、１センチほどの細い傷が出来ていた。
「もったいない……綺麗な指なのに」
　思わず呟いた美緒の言葉に、坂井は曖昧な笑みを浮かべた。