坂井誠二がその視線に気づいたのは、新学期が始まってちょうど一ヶ月が過ぎた5月の始めだった。
 担当の国語を教えているあるクラスの授業で、必ずといっていいほど、痛いくらいの視線を感じていた。

 みられている……というより、みつめられているという表現の方が的確かもしれない。
 みつめるといっても、うっとりみつめられるとか、そういった色づいたものでなく、鋭い、刺すような、一点に集中したような……そんな、今までまったく経験したことのない感覚だった。
 多分、今感じているそれらの中で一番的確な表現は『刺す』というものかもしれない。
 その証拠に、授業中にその視線を感じるだけで、冗談じゃなく体中に痛みを感じることもあった。

 いったい誰が、どういう意図で、その視線を投げかけてくるのか坂井には皆目見当がつかない。
 ただわかるのは、視線の主がそのクラスの生徒の誰かということだった。
 しかしそんなことがわかったところで、何か自分で打つ手があるかといえば……否だ。
 坂井自身確かに気にはなるものの、今のところ表立っての実害はない。ならばそのまま時間が過ぎ、視線の主が厭きるまでこのままのでもかまわない……そう思い始めた頃、状況が少しずつ形を変えてきた。