唇に重なった一点のぬくもり。
 美緒はそれを体中で受け止めた。

 初めての経験だった。
 何となく冷たい……そう思っていたそれが、予想をはるかに裏切って美緒の体中に熱を注いだ。
 その瞬間、少しだけ震えが走った。

 ほんの何秒かのくちづけが、永い……とても永い時間に感じた。
 唇が離れた後もお互いの視線が重なったが、坂井はそれ以上のことはしてはこなかった。
 美緒が求めれば、坂井も応じることはわかっていた。でも美緒は求めることはしないし元から求めてはいない……それは坂井にも伝わっていた。
 坂井はわかっている。
 わかっていて何も言わない。
 それは大人のずるさであることも、美緒はわかっていた。
 これはゲーム。
 そう言ったのは美緒の方だった。そして坂井はそれを納得し、自分を受け入れてくれている。