「学級菜園っていうのがあってね、クラスでジャガイモとかサツマイモとか、学校の校庭の隅に作られた畑で育てるの。当番制で放課後水遣りに行ったりするの」
「へえ、こっちの方でもそういうことするんだな。俺の住んでた所はけっこう田舎だからやってるのかと思ってたけど。あれだろ、収穫して校庭で焼き芋して食ったり」
 坂井も小学校の頃同じように野菜の収穫などを経験した。もっとも言うように、坂井の住んでいた地域は田んぼと畑だらけの田舎だったので、学校の中ではなく地域の農家に協力を貰い畑を借りて作業を行っていた。
「そのときね、私が当番だったとき。水撒きが済んだあとグループの友達とかくれんぼすることになって、私校庭の裏にある作業用の道具置いてる倉庫に隠れてたんだ」
 そう言って美緒は本当に楽しそうに笑みを浮かべる。坂井も近い記憶があるせいか、美緒の表情に自然と口元が緩んだ。

 アパートに来るようになって、美緒の内と外との違いに始めは多少の戸惑いもあった。
 学校ではこんな風に笑った姿を見ることなどない。
 いつもあの……ゲームを持ちかけてときと同じ、挑戦的な目で坂井を見つめていた。
 あの刺すような視線を投げかけてくる姿と、今ここで笑っている姿と、果たしてどちらが本当の美緒なのか、それは未だに坂井にはわからなかった。