「これと、えーと……あ、これか」
 机上にいくつも並べられた白い紙の束。その上を長い指がすべる。
 男の指とは思えないくらいしなやかな動きをするそれを、美緒はじっと目で追っていた。
「神崎、この三種類だ」
 指先から肘、肩、そして自分へと向けられた瞳へと、順番に視線を合わせていく。
「こっちは金曜までで、このふたつは来週の月曜まででいいから」
 無言で見つめる美緒の視線に臆することなく、合わせた視線を逸らすこともなく、男は淡々と言葉を並べる。

 ――ずるい男。

 美緒は視線でそう投げかける。


「じゃあ、よろしくたのむな」
 いつもとかわらないトーン。
 けれど男は、その視線の意味を汲み取ったかのように、唇の端を微かに上げた。