○3
この声。
社長秘書――リエは、受付から回ってきた電話の声を聞いた瞬間、記憶を甦らせた。
自慢ではないが、彼女は非常に記憶力がよかった。
特に、仕事に関した出来事については、ムキになって覚えるような習慣がついてしまっている。
それもこれも、ボスである社長の性格のおかげだ。
ボスの名前をカイト、という。
彼は、開発の仕事の才能は凄い―― らしい。
らしい、としか表現できないのは、リエ自身はテレビゲームなどはやらないからだ。
本体さえも、自宅には置いていない。
社長が開発に関わったソフトが、どんどん売上を伸ばしていることを彼女は知っている。
経営面の手伝いをすることはないが、業績のチェックだけは、怠らなかった。
それらを考えると、社長という存在は、この会社を高みに押し上げられるだけの力を持った人間、と考えて間違いない。
しかし。
リエは、社長に好意は抱いていなかった。
仕事が出来ようが、開発の社員に尊敬されていようが、ちっともカイトのことを尊敬できなかったのである。
それどころか、『何…この人、信じられないわ』、と思うことしばしばだった。
メインとなる社長としての仕事は、かなりぞんざいな態度だ。
ネクタイが嫌い、書類仕事が嫌い、接待が嫌い。
社長は、嫌いなものがたくさんあり、気分屋で、気に入らないことがあると、あからさまに表情に出すのである。
特に、その嫌いなものについてリエが何らかの失敗をしようものなら、おまえは無能だ、とでも言わんばかりの態度を取られるのだ。
こんなに腹立たしいことはない。
これでよく、社長としての立場が務まるものだと思うが、それでも取引などは成功させていた―― が、取引先に好かれているようには感じなかったので、かなり強引な取引を行っているのだろう。
おかげでリエは、社長の開発以外の雑務については、慎重になるように出来上がってしまったのだ。
この声。
社長秘書――リエは、受付から回ってきた電話の声を聞いた瞬間、記憶を甦らせた。
自慢ではないが、彼女は非常に記憶力がよかった。
特に、仕事に関した出来事については、ムキになって覚えるような習慣がついてしまっている。
それもこれも、ボスである社長の性格のおかげだ。
ボスの名前をカイト、という。
彼は、開発の仕事の才能は凄い―― らしい。
らしい、としか表現できないのは、リエ自身はテレビゲームなどはやらないからだ。
本体さえも、自宅には置いていない。
社長が開発に関わったソフトが、どんどん売上を伸ばしていることを彼女は知っている。
経営面の手伝いをすることはないが、業績のチェックだけは、怠らなかった。
それらを考えると、社長という存在は、この会社を高みに押し上げられるだけの力を持った人間、と考えて間違いない。
しかし。
リエは、社長に好意は抱いていなかった。
仕事が出来ようが、開発の社員に尊敬されていようが、ちっともカイトのことを尊敬できなかったのである。
それどころか、『何…この人、信じられないわ』、と思うことしばしばだった。
メインとなる社長としての仕事は、かなりぞんざいな態度だ。
ネクタイが嫌い、書類仕事が嫌い、接待が嫌い。
社長は、嫌いなものがたくさんあり、気分屋で、気に入らないことがあると、あからさまに表情に出すのである。
特に、その嫌いなものについてリエが何らかの失敗をしようものなら、おまえは無能だ、とでも言わんばかりの態度を取られるのだ。
こんなに腹立たしいことはない。
これでよく、社長としての立場が務まるものだと思うが、それでも取引などは成功させていた―― が、取引先に好かれているようには感じなかったので、かなり強引な取引を行っているのだろう。
おかげでリエは、社長の開発以外の雑務については、慎重になるように出来上がってしまったのだ。


