冬うらら 1.5

●12
 どうして、こんなにムキになって、彼女を先にお風呂に入れようとしたのか―― メイは、分からなかった。

 一生懸命翻訳しようとしたのだが、うまく言葉のパズルが出来なくて。

 カイトだって、仕事をして疲れて帰ってきたのだ。

 お風呂に入って、リラックスしたいに違いない。

 本当に、自分が先に入っていいのだろうか。

 しかし、彼は短気で、自分が決めたコトは、テコでも譲らないような人である。

 優しいところもたくさん感じていたが、固いところも持っているのだ。

 だから、これ以上、メイがどういう風にお願いしても、先に入ってくれることはないだろう。

 けど。

 まだ。

 カイトが、ドアのすぐ向こう側にいるのが分かった。

 はい、と答えはしたけれども―― 今ならまだ、彼に何か上手な言葉を伝えられるのではないだろうかと思ったのだ。

「あの……」

 もう一度、勇気を持って声をかけてみる。

 びくんっと、ドアの向こう側の気配が動いた。

 間違いなく、数十センチ向こう側に彼がいるのだ。

 たかがドアで隔てられただけで、こんなに遠く感じてしまうが、本当はすぐそこにいる。

 カイト…。

 愛しさと寂しさが、まるでより合わされたロープのように、胸を締め付ける。

 ここにいて欲しい、と思ってしまう。

「あの……よかったら、一緒にはいりま……あっ!」

 私ったら。

 無意識に動いた唇が、何を言おうとしていたのかを、そこまで来てやっと気づいたのだ。

 大胆とか、そういうレベルではなかった。

 メイは、ドアのこっち側で真っ赤になってしまう。

 一緒にお風呂に入りませんか、と、いま自分は誘おうとしてしまったのである。

 ということは、2人で裸で明るいバスルームに一緒にいる、ということだ。

 もし、そんなことが実現しようものなら、ゆで死ぬ、どころの話ではない。

 恥ずかしくて、もう二度と顔を見られないような気さえする。

「あ、ごめんなさい…いやですよね、そんな。すみません…急いで入りますから」

 メイは、慌てて弁解した。

 彼に、変に思われたに違いないからだ。