冬うらら 1.5

●10
 お布団も干したし。

 洗濯もした。

 掃除だって。

 今日の晩ご飯は、おでんだ。

 午後、帰ってきてからのメイの時間は、そんな仕事たちで飛ぶように過ぎていった。

 カイトが、残業ナシで帰ってくると言ってくれたのだ。

 こんなに嬉しいことはなかった。

 嬉しさの余り、勢いづいて全部やってしまったのである。

 ふふっ。

 そして、ことことと音をたてるおでん鍋の前で、メイの顔は思い切り緩んでしまった。

 自分の右の手のひらを見つめてしまったのだ。

 今日、何回こうやって眺めただろう。

 書いてあるのは、カイトのケイタイ番号。

 すぐにメモに書き写しはしたものの、どうしてもこの字が嬉しくて、消さないように一生懸命努力してしまった。

 ボールペンなので、水なんかであっさり消えてしまいそうで。

 ついついゴム手袋をしてしまったり、トイレの後は、そぉっと用心して手を洗ったり。

 ちょっと消えてしまった部分はあるけれども、まだしっかりとその文字は手のひらに残っていた。

 カイトの字。

 それが、自分の身体に刻まれているのだ。無性に嬉しかったのである。

 これのおかげで寂しくなかった。

 家事をしては眺め、また何かをしては眺め、としていると、すぐにカイトの仕事が終わる時間になったのだ。

 魔法の文字だった。

 そうやって、まだしつこく眺めているうちに。

 車が入ってくる音がした。

 帰ってきた!

 そんなに大きな音では聞こえない。

 けれども、メイは手を眺めながらも、耳はダンボのように外の音を拾おうと頑張っていたのだ。

 慌ててガスを切って、玄関の方へと駆けていく。