冬うらら 1.5


「あの…社長が結婚されているというのは」

 かえってリエの方が、その言葉に驚いてしまった。

 自分の予測が外れて、本当は社長は既婚者だというのか。

 一体、どこで女性を騙してきたのか。

 はたまた、完全な政略結婚か何かなのか。

 リエの頭の中で、いろんな可能性がめぐる。

「はい、結婚されていますが」

 あっさり。

 気抜けするほどあっさりと、副社長は答えた。

 ほんのすこしの誤解も招かない、正しい言葉だった。

 本当、だったのだ。

 電話の女性は、「自称」ではなかった。「正真正銘」だったのだ。

「あ、ああ…そうだったんですか」

 慌てて取り繕おうとした。

 自分一人驚いているのが、バカのように思えたからである。

 だから、平静であるかのように顔を作ろうとした。

 あの社長が結婚している。

 それだけのことだ。

 別に自分の仕事には、何の差し支えもないハズである。