冬うらら 1.5


 フィットネスクラブなどで身体を動かしてストレスを発散しないと、ひずみから溶岩が流れ出してきそうだ。

 頭を冷やす意味では、水泳がいいかもしれない。

 くたくたになるまで泳いで、ベッドにバタンと倒れ込めば、いやなことも思い出さずに、ぐっすり眠れるだろう。

 そんな近未来の想像で、何とか目の前のもやのようなストレスを払おうとしているところに、見慣れた姿が現れた。

 副社長である。

 手には書類だ。

 また、彼に決済させるものを、増やそうというのである。

 社長室に入ろうとする彼を、リエは呼び止めなければならなかった。

「社長は、ただいま席を外しておられます」

 無意識に、イヤミっぽい口調になってしまう。

 副社長はぴたりと足を止め、彼女の方を振り返った。

「まさか…開発室の方に?」

 それが、一番最初に彼の頭をよぎったのか。

 副社長の言葉は、しかし、妥当な線だった。

 リエであっても、最初はそう思った。

 今日だって、一番最初に社長の所在を訪ねたところだ。

 しかし、そこには一度も顔を見せていないということだった。

「いいえ…違います」

 分かるはずがない。

 いくら頭脳明晰で、分析力の高い副社長であったとしても、これまでただの一度もありえなかった出来事を、言い当てられるはずがなかった。

 たとえ、あの社長と同じ屋根の下で暮らしていたとし―― あら?

 リエは、目を細めた。