○9
……社長。
リエは、いやな汗をかいた。
一度目を閉じて、いまの自分の感情を沈めようとした。
社長が―― 出ていったきり戻ってこないのである。
その間、取引先からの電話が2件入っていた。
幸い、どちらも急用ではなかったのでよかったが。
時計を見ると、もうすぐ2時。
出ていってから、かれこれ1時間半くらいということになる。
一体、何時に帰ってくるかも伝えずに―― しかも、受付に聞いたところによると、訪ねてきた「自称:妻(?)」の腕を掴むや、一度エレベーターで上に行ったっきり見ていないという。
次に、パーキングの守衛に聞くと、その「自称:妻(?)」を連れて、車で出ていったというのである。
一体、どこに。
いままで、あの社長に彼女や奥さんがいるという噂はなかった。
リエだって、いるなんて思ってもみなかった。
冷静に考えてみれば。
失礼な表現かもしれないが、あの暴君な男と、笑顔でつきあえる女がいるなんて思ってもみなかったのである。
普通なら、あまりのひどさに付き合うまで発展しなさそうだった。
リエでさえ、秘書という仕事上の立場だからこそ、我慢をしているのだ。
ここで、もし彼の短気に頭が来てやめたとするだろう。
そうしたら、あの社長は、『やっぱり女は』というような目で、自分を見そうな気がしたのである。
そう考えると、彼女はますますムキになって、仕事を辞めるなんて思わないようにするのだ。
こうなったらもう、向こうに『必要不可欠な有能な秘書だ』と思わせるしかなかった。
その瞬間を味わうために、リエは忍の一文字で働き続けているのである。
なのに、そんな秘書の心も知らずに、社長は女と出かけてしまったのだ。
無意識に、こめかみに交差点が浮いてしまう。
はっと気づいて、表情をただす。
随分、ストレスがたまっているように思えた。
……社長。
リエは、いやな汗をかいた。
一度目を閉じて、いまの自分の感情を沈めようとした。
社長が―― 出ていったきり戻ってこないのである。
その間、取引先からの電話が2件入っていた。
幸い、どちらも急用ではなかったのでよかったが。
時計を見ると、もうすぐ2時。
出ていってから、かれこれ1時間半くらいということになる。
一体、何時に帰ってくるかも伝えずに―― しかも、受付に聞いたところによると、訪ねてきた「自称:妻(?)」の腕を掴むや、一度エレベーターで上に行ったっきり見ていないという。
次に、パーキングの守衛に聞くと、その「自称:妻(?)」を連れて、車で出ていったというのである。
一体、どこに。
いままで、あの社長に彼女や奥さんがいるという噂はなかった。
リエだって、いるなんて思ってもみなかった。
冷静に考えてみれば。
失礼な表現かもしれないが、あの暴君な男と、笑顔でつきあえる女がいるなんて思ってもみなかったのである。
普通なら、あまりのひどさに付き合うまで発展しなさそうだった。
リエでさえ、秘書という仕事上の立場だからこそ、我慢をしているのだ。
ここで、もし彼の短気に頭が来てやめたとするだろう。
そうしたら、あの社長は、『やっぱり女は』というような目で、自分を見そうな気がしたのである。
そう考えると、彼女はますますムキになって、仕事を辞めるなんて思わないようにするのだ。
こうなったらもう、向こうに『必要不可欠な有能な秘書だ』と思わせるしかなかった。
その瞬間を味わうために、リエは忍の一文字で働き続けているのである。
なのに、そんな秘書の心も知らずに、社長は女と出かけてしまったのだ。
無意識に、こめかみに交差点が浮いてしまう。
はっと気づいて、表情をただす。
随分、ストレスがたまっているように思えた。


