冬うらら 1.5


「そうですか?」

 ぱっと、明るく笑顔が輝いた。

 本当に嬉しそうに。

 だから、軽く頭を上下に動かした。

「それじゃあ、帰ってきたらすぐ、ご飯に出来るようにしておきますね」

 にこにこにこにこ。

 カイトが定時で帰ってくるのが、そんなにまで嬉しいのだろうか。

 そう考えると、彼の方もたまらなくなる。

 メイも、自分と出来る限り一緒にいたい。

 そう思っているような気がして。

「じゃあ…気をつけて、お仕事がんばってくださいね」

 もう一度、頭をかがめるようにして、車の中を覗き込んでくる。

 そんなお別れのセリフを言って、カイトを会社に戻そうと言うのだ。

 いや、確かに彼は戻らなければならないのだが。

 手を伸ばして。

 その頬に軽く、触れた。

 せっかく、彼女とこんな時間に出会うことが出来たというのに、きちんと触れた、という気には全然なっていなかったのだ。

 手を掴んで引っ張り回したり、降りるというのを引き止めたり、電話番号を書き込んだりと、そのくらいだった。

 頬に触れると、彼女がカチンと緊張したのが分かる。

 やはり、まだ固い水のままなのだ。

 こうやって自分に触れられることに、まったく慣れていない状態。

 カイトもそうだった。

 彼女への触れ方を、まだ全然分かっていないのである。

「あの…っ」

 緊張した唇。

 赤くなった頬。

 どれもこれもが、ぎこちない反応を返す。


 おかげで―― ひどく、ぎこちないキスになった。