冬うらら 1.5


「出来るだけ、かけないようにするから…」

 嬉しそうに、でも、メイはそんなことを言う。


 違う!


 そうじゃねぇ!


 かけて、いいのだ。

 そのために、教えているのである。

「あ、そうだ…」

 カイトの荒れ狂う気持ちになど、気づいてないに違いない。

 彼女が、いま思いついたとばかりに、そう言い出した。

「今日は、お仕事何時くらいに終わります?」

 随分、忙しいみたいですよね。

 メイは、少し心配そうな口調になった。

 先週、彼が土曜日も仕事に行っていたのを知っているだろう。

 家政婦として、しばらく通っていたのだから。

 きっと仕事が忙しいと思っているのだ。

 いや、忙しくないワケではない。

 社長室には書類が山になっているし、開発の方だって次第に納期が迫ってくるのだ。

 しかし、しかし、しかし、しかし、しかし!

「……残業は…ねぇ」

 そう、答えた。

 まだ。

 メイが、自分の身体になじんでいない。

 まるで、山川から汲みたてたばかりの水のようだった。

 生まれたての固い水。

 何度も何度もぶつかって、自分に馴染ませて、柔らかく触れあっているように感じるまで、カイトは彼女の存在には慣れないだろう。

 そこまで、とは言わないが―― もうしばらくは、出来るだけ側にいたかった。

 彼女が本当にそこにいる、という事実から噛みしめることに、いまはまだ精一杯なのだから。