事は、ほんの数ヶ月前に起こった。


――――――
――――・・・




「さやーっ!」




「ん?どうしたの?美香」





ハアハアッと息を切らしながら走って来るのは、友達の、石井美香。




「あたしっ、

好きな人できたかも」





「うんうん。そっか~…って、ええーー!?」





頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯く親友からのいきなりの報告に驚いて声をあげてしまった。





「うそうそっ!?いったい誰なの?」




目の前にいる、「う~ん…」と唸っている美香は本当に可愛らしくて、首を傾げると同時にフワッとローズの甘い香りが鼻をかすめた。





「ちょっと沙耶耳かして」


「ん、」




流石に30人ほど生徒がいる教室の真ん中で言うのは気が引けるのか、そう小声で呟く美香に、少し体を傾けて耳を寄せる。





「あのね……三年の葵先輩なんだけど」







「え……?」





そ、んな……嘘でしょ…?




――新田葵。


バスケ部の部長で、爽やかなところが良いと、女子の中では結構な評判。


誰にでも優しくて、いつでも笑顔を崩さない人だ。友達もとても多くて、何か頼み事をされているところを良く見かける。