どれだけ優しい顔をしていても、所詮人間というものは闇が皮を被った生き物に過ぎない。
些細なことで豹変するし、笑みを浮かべながら平気で子どもを殺すようなやつもいる。
(餓えに苦しむ子どもより自分達のほうが大切で、安易に見殺しにして…)
今まで見てきた人間は、みんなそんな奴等ばかりだった。
沈黙が怖くて、なにも言えずただじっと地面を見ていると。
「名前は?」
背の低い俺に合わせて、女は汚れることも気にせず膝を着いた。
泥で汚れている俺の顔を乱雑に擦り、また笑う。
(…変なヤツ)
あったかくて穏やかで、弱くないのに優しい。
「…ヒカリ」
だからか、俺は今まで誰にも語ったことのない名前を口にした。
この名前は好きじゃない。
この真っ暗闇の世界で「光」と同じ音なんて、意味もなく浅ましくて、なにより希望に満ちた作り物の綺麗事のようで、好きじゃなかった。
けれど女のほうは嬉しげに笑って、男は少しだけ目尻を優しく緩める。


