俺の知ってる女の柔らかいそれじゃなく、男のように硬くて厚い皮膚。
―――その手がまさか、父ちゃんみたいだなんて。
「最近は餓えた獣が出るようになったからね。君みたいに痩せた薄付きの骨でも、彼らにはご馳走に見えると思うよ」
こっちはこっちで淡白な表情のままそんなことを言う。
声まで中性的だ。
男より高いけど女より低い。
人の耳に心地好い音程。
無駄に元気そうな女のほうが着ていたコートを俺にかけてくれた。
父ちゃんかと思えば母ちゃんみたいなこともする。
そしてシャツだけになったその女に、もう一人の無駄に綺麗な人間が自分が着ていたコートを差し出す。
黒いコートから現れた体は真っ平だった。
こいつ男だ。
男に見えないけど男だ。
ありえねぇ。
「あんた迷子?見たとこ真鶸より二、三個下くらいかなあ」
よしよし。
ごく自然に伸びてきた女の手が俺の頭を撫でる。
「っ、」
その慣れない暖かさに、思わず恥ずかしくなってその手を払い退けてしまった。
沈黙と硬直した空気に当てられ、別次元の恐怖が沸き上がる。
(下手に機嫌を損ねたら殺されるかもしれない)


